ギガヘルツ・チップが,今,研究所の外に出ようとしている。今までは,研究室の実験台の上にしか存在しえなかったものが,今,その扉を開けようとしている。そこに差す光は…。
IBM社の研究者たちは,開催されているISSCC会議(国際固体回路会議)で,現在最速のペンティアム3チップよりも最大で5倍速い,3.3〜4.5GHzで動作するチップを発表する。このチップは,1つになっているクロックを複数に分散させ,これにより,回路の高速部分がより速いサイクルで動作でき,同時に,消費電力も大幅に削減できる。
ISSCC会議に合わせて,チップ動作速度レースが新しい展開を見せている。インテル社が,ペンティアム3の1GHzのデモを行なえば,AMD社は,アスロンの1.1GHHzのデモを行なった。またIBM社も,1GHzの特別仕様パワーPCを出す予定だ。モトローラ社も,およそペンティアム3の1GHzと同等の性能となるパワーPC G4の780MHzを発表するようだ(WIRED NEWSの記事)。だが,これにはちょっとした疑問もあって,モトローラは現在,アップルに供給しているG4に手を焼いている(MacWIRE ONLINEのサイト定点観測)。となるともう一方のパワーPCの供給元,IBMへの希望と期待が入り交じる。そのIBMの,口あんぐりになる発表が,3〜4GHzを手の届く未来に現実とする『Interlocked Pipelined CMOS』だ。現在の設計図では限界が見えてきている現状で,まず設計図を破り捨てることから始めるのは勇気がいることだ。それを行なった研究者に,敬意を表したい。
まるで,始めて扉の外へと出なければいけない小猫のように,不安を抱えて,ギガヘルツ・チップは日の目を見ようとしている。外に出て,失敗をすれば,自分の死を意味する。だが,みんながそれを待っている。掌の上の1GHzを,明日の世界を変えるInterlocked Pipelined CMOSを。今,研究所の外は,期待の光に包まれている。
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